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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)1955号 判決 1972年7月08日

原告

奥田隆蔵

被告

宮口良夫

ほか一名

主文

被告正盛館坩堝工業株式会社は、原告に対し、金二四、〇〇〇円およびこれに対する昭和四六年五月一一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告宮口良夫は、原告に対し、金一八四、〇〇〇円およびうち金一七九、〇〇〇円に対する昭和四六年五月一一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のこの余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その三を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告らは、各自原告に対し、金二五九、〇〇〇円およびうち金二三九、〇〇〇円に対する昭和四六年五月一一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二請求の原因

一  事故

原告は、次の交通事故により傷害および物損を受けた。

(一)  日時 昭和四六年二月四日午後八時ごろ

(二)  場所 堺市出島海岸通三丁先道路上

(三)  加害車 普通貨物自動車(大阪四や四六六四号)

右運転者被告宮口

(四)  被害車 小型乗用自動車(泉五五す五九七〇号)

右運転者原告

(五)  態様 被害車が停止中に加害車が追突し、その衝撃により被害車が更に先行車に追突した。

二  責任原因

(一)  運行供用者責任

被告正盛館坩堝工業株式会社(以下被告会社という)は、加害車を所有し、被告宮口は、加害車を使用し、いずれも自己のため運行の用に供していた。

(二)  使用者責任

被告会社は、自己の事業のため被告宮口を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中本件事故を発生させた。

(三)  一般不法行為責任

(1) 被告宮口は、加害車を運転中前方を注視するべき注意義務を怠り、ブレーキ操作を誤つた過失により本件事故を発生させた。

(2) 被告会社は、加害車の管理について過失があつたため、本件事故を発生させた。

三  損害

原告は、本件事故により、次の損害を蒙つた。

(一)  治療費 五六、五五〇円

原告は、本件事故により、後頭部打撲、頸部挫傷の傷害を受け、昭和四六年二月五日から同年四月一六日まで岩木病院に通院して治療を受けたが、頭重、肩および頸部のこりがあり、疲れ易いなどの症状が残つている。原告は、右治療費として五六、五五〇円を要した。

(二)  慰藉料 一〇〇、〇〇〇円

(三)  自動車修理費 一四〇、〇〇〇円

原告は、本件事故により、その所有する被害車が破損したので、修理費として一四〇、〇〇〇円を要した。

(四)  弁護士費用 四五、〇〇〇円

着手金一五、〇〇〇円、成功報酬三〇、〇〇〇円

(五)  損害の填補 八二、五五〇円

原告は、本件事故による自賠保険金として、本件請求のうち治療費五六、五五〇円および慰藉料二六、〇〇〇円の支払を受けた。

四  よつて原告は、被告ら各自に対し、前記三(一)ないし(四)の合計金三四一、五五〇円から前記三(五)の金八二、五五〇円を控除した金二五九、〇〇〇円およびうち前記三(四)の内金三〇、〇〇〇円を除く金二二九、〇〇〇円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四六年五月一一日から支払済まで民法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告らの答弁および主張

一  請求原因第二一の事実中(一)ないし(四)の事実は認めるが、(五)の事実は否認する。第二二の事実中(一)の事実のうち被告会社は、加害車を所有していたことは認めるが、その余の事実は否認する。(二)、(三)の事実は否認する。第二三の事実は否認する。

二  被告宮口は、学生であつたが、被告会社に無断で加害車を運転していたものである。

第四被告らの主張に対する原告の認否

一  被告ら主張の第三二の事実は否認する。

第五証拠〔略〕

理由

一  事故

請求原因第二一(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、被害車が停止中に加害車が追突し、その衝撃により被害車が先行車に追突したことが認められる。

二  責任原因

(一)  被告会社

被告会社は、加害車を所有していたことは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕を総合すると、被告宮口は、事故の前日である昭和四六年二月三日午後四時ごろ、自動車運転免許証の交付を受けた直後に、被告会社の車庫から被告会社の社員に無断で加害車を持ち出し、翌四日、友人とともにドライブするためこれを運転中に本事故が発生したこと、加害車は被告会社の本店所在地の車庫に置いてあり、会社の出入口のシヤツターは閉つていたがその錠はすぐそばにあつて容易にこれを開くことができる状態であり、車の鍵は車に差込んだままとなつていたこと、被告宮口は、同月三日の夜は加害車を友人宅に保管し、同月五日には加害車を被告会社に返還しておくつもりであつたこと、被告宮口は、被告会社の代表取締役城木成雄の妻の弟にあたり、被告宮口の姉の宮口久美子は、被告会社の取締役となつていて被告会社の事務をとつており、被告宮口の母の宮口キヨは監査役となつていたこと、被告宮口は、事故当時高校三年生であり、昭和四五年の夏休みに被告会社にアルバイトとして勤務し、商品の配達などをしたことがあり、姉を訪ねて時々被告会社に立寄ることがあつたが、自動車を運転したことはなく、事故当時被告会社に勤務していたものではなかつたこと、被告会社の本店は城木成雄の住所地であり、被告宮口は、昭和四三年一〇月ごろまでは右住所地に城木成雄と同居していたが、その後は被告会社の社宅に転居したこと、城木成雄は、昭和四四年二月四日、加害車が持ち出されていることを知つたが、被告宮口が持ち出したものと推測して特段の措置をとることなく放置していたことが認められ、右認定を左右しうべき証拠はない。以上の事実によれば、被告会社は、事故当時加害車の運行支配を失つてはいなかつたものと認められるから、加害車の運行使用者として原告に対し、本件事故によつて生じた傷害による損害を賠償するべき義務がある。

しかしながら、以上の事実によれば、被告会社は、本件事件当時被告宮口を雇用してはおらず、かつ本件事故は被告会社の業の執行につきなされたものではないことが認められるから、被告会社は、被告宮口の使用者としての責任を負うものではない。また右事実によれば、被告会社は、加害車を車庫内に保管し、シヤツターをおろしていたのであるから、たとえシヤツターの鍵がすぐそばにあり、かつ車に鍵をかけていなかつたといつても、被告宮口が加害車を持ち出した時刻が、午後四時ごろであつたことをも考慮すると、特に加害車の保管について被告会社に過失があつたものと認められないし、本件事故が右過失によつて生じたものということもできない。従つて原告の被告会社に対する物損による損害賠償請求は理由がない。

(二)  被告宮口

原告および〔証拠略〕を総合すると、被告宮口は、加害車を運転して北から南に向つて進行中、前方の交差点手前で赤信号のため被害車が停止するのを認めてブレーキをかけ、時速二〇ないし三〇キロメートルに減速し、ハンドルを左に切つて被害車の左側に停止しようとしたが、ハンドル操作を誤つて加害車の前部を被害車の左後部に追突させ、その衝撃により被害車を更にその前方に停止中の自動車の後部に追突させたことが認められる。以上の事実によれば、被告宮口は、加害車を運転中前方を注視し、適確なハンドル操作をなすべき注意義務を怠つた過失によつて本件事故を発生させたものと認められるから、不注行為者として原告に対し、本件事故によつて生じた損害を賠償するべき義務がある。

三  損害

(一)  治療費 五六、五五〇円

〔証拠略〕を総合すると、原告は、本件事故により、後頭部打撲、頸部挫傷の傷害を受け、頭痛、吐気、右上下肢しびれ感を訴えて昭和四六年二月五日から同年四月一六日までに一三日岩木病院に通院し、さしたる後遺症もなく治癒したこと、原告は、右治療費として岩木病院に五六、五五〇円を支払つたことが認められる。

(二)  慰藉料 五〇、〇〇〇円

前記三(一)の原告の傷害の部位、程度、治療期間を合わせ考えると、原告が本件事故によつて蒙つた精神的損害に対する慰藉料額は五〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

(三)  自動車修理費 一四〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故により、その所有する被害車の左後部および左前部が破損したので光自動車工業株式会社に修理を依頼し、同会社に修理を依頼し、同会社に修理費として一四〇、〇〇〇円を支払つたことが認められる。

(四)  弁護士費用 二〇、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告は、本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し、着手金として一五、〇〇〇円を支払い、成功報酬として三〇、〇〇〇円を支払う旨を約したことが認められるが、本件事案の性質、審理の経過および認容額に照らし、原告が本件事故による損害として賠償を求めうるべき弁護士費用額は右のうち二〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

(五)  損害の填補 八二、五五〇円

原告は、本件事故による自賠保険金として、本件請求のうち治療費五六、五五〇円および慰藉料二六、〇〇〇円合計八二、五五〇円の支払を受けたことは原告の自認するところである。

四  従つて原告は、被告会社に対し、傷害による損害として前記三(一)、(二)の合計金一〇六、五五〇円から前記三(五)の金八二、五五〇円を控除した金二四、〇〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四六年五月一一日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告宮口に対し、前記三(一)ないし(四)の合計金二六六、五五〇円から前記三(五)の金八二、五五〇円を控除した金一八四、〇〇〇円およびうち前記三(四)の内金五、〇〇〇円を除く金一七九、〇〇〇円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めうるものであるが、原告のその余の請求は理由がない。

よつて原告の請求は主文第一、二項掲記の限度でこれを認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条第一項本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫)

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